3Mixとは岩久(いわく)先生らの新潟大学歯学部ウ蝕研究グループが開発し1990年頃に公開された治療法です。虫歯を薬*で消毒して治すという言わば虫歯の内科的治療法です。このユニークな発想は当時の日本の歯科界に一大ブームを巻き起こしますが、すぐに下火になってしまいました。
*メトロニダゾール(フラジール内服錠など)、ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシンカプセルなど)、塩酸シプロフロキサシン(シプロキサン錠など)を混合したもの。またこれにセファクロル(ケフラールカプセルなど)を加えて新3Mixと呼ぶ事もあるがメトロニダゾールが核となるにせよ処方の細かい所にはこだわっていないというのが岩久先生の現在の見解。むしろ塩酸シプロキサシンは入れない方が良いというご意見である。

 そもそも岩久先生が3Mixを考えられたきっかけは1980年代に離島の子供たちに蔓延していた虫歯を治す事でした。特に学童期に6歳臼歯と呼ばれる奥歯の神経を抜いてしまえば中年になる前には、ほぼ確実に抜歯されて*その多くがブリッジになります**。そして老け込むには早すぎる時期までにブリッジは徐々に入れ歯に移行して行くというのが一般的なストーリーです。つまり一生自分の歯で噛むためにも学童期に6歳臼歯の神経を残す事はたいへん重要な事なのです。そこで歯科用セメントに3Mixの粉を混ぜた物を大きな虫歯に詰めて回復を待つ方法を岩久先生が考案されたのです。そしてこの3Mix法は劇的に奏効して今や離島の虫歯はほとんど無くなったそうです。
 この様に岩久先生の3Mix法は歯科用セメントに混ぜて使うというのが基本原則です。しかし固めた歯科用セメントからは少しずつしか3Mixが溶けていきません。そのため回復力の強い未成年ならともかく、成人に用いても効果がいまいち分かりづらいという欠点がありました。そして時期を見て2度目の治療が必要であるという点も問題でした。これらが岩久先生の3Mixが一過性のブームに終わった理由ではないかと思います。
*海外では神経を抜いてから30年、35年というデータもあるそうですが、日本では10年から20年程度で抜歯になるケースが多いはずです。その原因の一つには健康保険で使われている金属は口の中で摩耗しないほど丈夫で硬いのですが、それが仇となって歯に加わった力のすべてを金属が集めて金属と歯の境い目に力を集中させます。それが原因で歯にヒビが入りやがて虫歯になるのですが、神経がないと本当に酷くなるまで気がつきません。とは言え海外のケースでも神経を抜いた歯の寿命は有限である事に変わりはありません。
** 気にならなければ何もしないという選択肢も私としてはケースバイケースでありだと思うのですが「何か入れておかないと歯並びが悪くなるよ」という常套句のために一般的ではありません。そこで6歳臼歯を抜いた後は小さな入れ歯にするかブリッジにするかですが、入れ歯は慣れるまで違和感が強いし人によっては強い精神的抵抗がある物です。そのためほとんど説明のないままブリッジを施されるケースがほとんどです。ところがブリッジは清掃性が悪いのと2本の歯がつながっているために異常に気づいた頃には手遅れで抜歯となる事もよくある話です。そもそもブリッジを入れる原因は6歳臼歯の神経を抜いたからなのにブリッジを入れるために更に隣り合う歯の神経を抜くという事も常識的に行われているのも問題です。一方海外では白くない歯は嫌われるので金属のブリッジを好んで入れる人はいないでしょう。かといって白いブリッジはそれなりの治療費が掛かる上にたいていは神経を抜かねばなりません。だったらインプラントも現実的な選択肢になりますし、そこまでしたくないと思えばノンクラスプデンチャーという選択肢もあります。

 さて効果が曖昧なために暫く忘れられていた3Mixですが、宅重(たくしげ)先生らの3Mix法により再び世間の脚光をあびます。宅重先生らの3Mix法は現在商標登録されていますので、ここに名前を出す事が出来ません。そこで仮に3Mix宅重法としておきます。

 ここで3Mixと健康保険で行われている従来の方法と比較しておきましょう。ここでの従来法とは健康保険で行われている様な治療方法を意味します。
<従来法>
 1. 虫歯の広がり全体像が把握出来るまで虫歯の穴を拡大する
 2. 修復方法を決めて歯に彫り込む形のデザインを決定する
 3. そのデザインに添って歯を削る
 4. 虫歯でやられた部分を除去する
 5. その穴をセメントで埋めて彫り込む形の仕上げする
 6. 型取りして詰め物を作るか、直接詰めるかして終了
  (必要に応じて適宜神経を抜く治療に切り替える)
<岩久先生が離島の学童に行った方法>
 1. 痛みがある場合はヨードホルム等を入れて仮止めして様子を見る
 2. 可能な限り虫歯を除去する
 3. 3Mixを混ぜたセメントで仮詰めする
 4. 半年から数年の後に通法で詰め物をして終了
<3Mix宅重法(本から得た知識で想像するに)>
 1. 痛みを覚えない範囲で可能な限り虫歯を除去する
 2. 痛みを覚えなくても神経が露出する前に虫歯の除去は止める
 3. 残った虫歯の上にクリーム状の3Mixを置く
 4. その穴を3Mixを残したままセメントで埋めて整える
 5. 修復法に応じたデザインに添って歯を削る
 6. 型取りして詰め物を作るか、直接詰めるかして終了

 岩久先生の3Mix法は第一段階では虫歯を残したまま仮止めしますが、象牙質が新しく出来て神経が塞がった頃を見計らって虫歯を除去した上で最終処置を行います。もちろん従来法も虫歯は完全除去します。ところが3Mix宅重法は虫歯が残っていても3Mixを歯の中に残しておくから構わないとする点が画期的に異なる点です。従来法が健全歯質を多少犠牲にしようとも虫歯の除去を前提にしていたのに対して3Mix宅重法は虫歯を残しても良いとするので歯の削除量をかなり減らす事ができるはずですし、痛くもなかった歯の神経を抜いてしまう様な事も起こらないでしょう。

 それでは3Mix宅重法が良いかというとこれは一概にいえません。3Mix宅重法は虫歯を3Mixごと封じ込めてしまうのですが、どの程度までなら虫歯を残しても良いのか、そしてどれぐらいの量の3Mixをどこに置けば効果的なのかを判断するのが難しいだろうという事は誰でも想像出来ると思います。また宅重先生はそういう治療を基本的に健康保険で治療としている点です。それは患者さん経済的負担と言う点からすれば尊敬すべきことですが、健康保険を利用する限りにおいては歯を削る量を劇的に減らす事は出来ないのもMI(Minimum Intervention:最小の侵襲)による治療法から見れば歯痒い点です。

 さて当医院も3Mixを活用させて頂いていますが、3Mixありきの治療をしているのではありません。MI(Minimum Intervention:最小の侵襲)による治療法で健康な歯質をなるべく削らない、神経も可能な限り抜かない治療を実践するための抗菌消毒剤として活用させて頂いています。
 MIによる治療はダイレクトボンディングで仕上げるのが常識ですが、そのダイレクトボンディングのを成功させるために虫歯は完全除去を原則とし3Mixの塊を歯の中に残す事もしません。なぜなら虫歯や3Mixを残すとダイレクトボンディングの接着力が損なわれてしまいその良さが損なわれるからです。また虫歯の程度によっては数回の通院が必要ですが、半年後に掘り返して再治療という手間を省くために3Mixは即効性を重視して水で練った物を歯面に貼付して仮止めをして歯の中の消毒をしています。こうした水で練る方法は3Mix開発者の岩久先生からご指導を受けた上で使用していますし3Mixのシプロキサンという薬は妊婦や乳幼児の安全性が確立されていないので使わない方が良いといった事も岩久先生からご教授いただきましたので当医院はシプロキサンは使っていません。

追記
 3Mixは健康保険の認可を受けいていないので*これを健康保険の枠に持ち込むのは違法ではないかという意見もありますが、岩久先生曰く歯の神経が助かれば保険医療費も減るので3Mixにはお役人も興味があり、お役人の後押しで製薬会社に打診した所、厚生省の認可**を受けるには2億円かかるが歯科の小さな市場ではとてもペイ出来ないと言われたそうです。こんな事を引き合いに3Mixは患者さんに十分な説明をし薬物アレルギーに十分留意し混合治療***にならなければしなければ半ば公認だとおっしゃってみえました。(ただし3Mix宅重法についてはマクロゴールとプロピレングリコール****を人体に用いても良いとする合理的な理由がないと否定的でした)
*健康保険で使用する薬はもちろん材料や器具に至るまで許認可が必要。それ以外の物は自由診療で患者の合意と医師の裁量権で使う事が出来る。厳密に言えば3Mixを健康保険に持ち込むはこの点からして違法。
**3MIxに使用される薬は飲み薬としてそれぞれ認可を受けていて安全性も認められているがこれらを混ぜ合わせて使う場合は新たに許認可を受ける必要がある。
***健康保険の窓口料金以外に3Mixの料金を追加請求する様な行為。
****微量であるとは言え確かに積極的に使いたくない薬物ではある。